友人が取締役をしている会社では、5月から6月にかけて担当部門に配属された新人さんと役員が面談する、という行事があるそうだ。新入社員にとって、初めて社会に出てみて、想像と違ったということに悩み出すのがこの時期。
その友人の会社はサービス業で、基本は全員出社して業務にあたる。そんな会社の中で、一番多い新入社員の悩みが、
朝、起きられない
ということなんだそうだ。
そういう若者に対して、いろいろ話を聞いて、改善に持っていって会社に馴染んで溶け込めるようにするための面接なんだそうだ。
それはそれで、なかなか難しい面接で、そんなに簡単に改善されるのか?と思うが、友人曰く、
「とにかく、まずは本人が改善しようと思っているかどうか」
が大切で、
「改善しようと思っていれば、それに向けてどのようにしていくかを一緒に考えて一歩づつ一緒に進む」
というアプローチなんだそうだ。会社としても、
「応援しているよ!」
と態度で示す事もとても重要なんだと言う。
そんな新人さんの中で、とりわけ、朝の出勤に困難な青年がひとり。
その青年は、改善したいと本気で本人は思っているものの、出来ないことに悩んでいた。
「前日に夜遅くまでスマホをいじったりしている、とか、そんな事ないの?」
と聞けば、
「確かに、ちょっと一生懸命になってしまうと、時間が経つのも忘れてしまって、つい朝までということがあるんです」
と言うので、
「その、やり始めると時間が経つのも忘れてしまう事って、例えばどんなものにハマっているの?」
「実は、音楽を作曲したりしていて。それを始めると時間経つのを忘れてしまって…」
「そうなんだね。もし良かったら、どんな音楽を作曲しているのか聞かせてもらってもいいかな?」
と言うと、おもむろにYoutubeに接続し、
「例えば、こういうのとか」
と言って聞かせてくれた。 それは、いわゆるボカロミュージックで、友人も音楽に詳しいわけではないけれども、でも1回聞いただけで「これはタダモノではない!」と思えるようなミュージックだったそうで、相当驚いたそうだ。
「なんだか、すごくいい感じじゃないの。これってよくわからないけれども、仕事になるくらいのレベルなんじゃないの?」
と聞けば
「実は、某音楽事務所にも所属していて、まだ本名は明かさないようにとは言われているんですけれども、将来的にはどこかで発表するような準備もしています」
と言う。聞けば、あいみょんとか米津なんかとも親交があるらしい。
それを聞いた友人は、すかさず、
「いやあ、うちの会社に朝ちゃんと出勤するとかそんな事よりも、こっちで成功することに賭けるほうがずっといいと思う。若いんだし、才能もあるんだから。すごいじゃないの!絶対にやるべきでしょう!」
と、会社で頑張るではない方向へ思い切り背中を押して、面談を終了させたという。
その後、その青年君がどうなったかはまだ聞いていないけれども、でも、若いってことはそれだけで無限に可能性が広がっているということだし、失敗したってどうってことないことがほとんどだ。友人の背中押しは間違っていなかったと思う。
取締役として、その会社の利益を損ねる行為に抵触したかどうか、は微妙ではあるけれども…
若者よ! 大志を抱け!